誤情報について

現在、非常に多くの誤情報(「デマ」)がインターネット上で流布しています。例えば、「ワクチンには効果がない」という情報は、世界各地で新型コロナワクチン接種後に重症者数や死者数が減少しており、接種と減少との関連を裏付けるデータが多数あることから、デマに相当すると考えられます。

また、特に接種が開始された2021年当初、「ワクチンで人が死ぬようなことはない」との意見が聞かれましたが、既にワクチンとの因果関係が認められた(否定できない)死亡例が存在することから、この意見もデマに相当すると言えます。

以下も、明らかなデマに相当します。

ある特許出願に関するデータに基づき、COVID-19のパンデミックは2019年よりも前から計画されていた、との情報が、日本を含め世界各地から発信されました。(例:https://rapt-plusalpha.com/17341/?fbclid=IwAR3oXzY1sD7CUJ9ZIFshmpghB8rrjGl5M1q6k8trDURxsOQ9Dx77rCM1bDk) これは、”System and Method for Testing for COVID-19(COVID-19検査のためのシステムおよび方法)”のタイトルを有する特許出願の「優先日」が2015年であることに端を発した誤情報です。一部のソーシャルネットワーク/メディアでは、「優先日」の語が「出願日」にすり替えられ、デマが発信されていました。優先日とは、本願(System and Method for Testing for COVID-19)の基礎となる特許出願(基礎出願)との関連において存在する日付であって、本願の出願日(本願が出願された日)ではありません。基礎出願は生体情報の処理に関する出願であり、COVID-19とは無関係です。米国には、既存の特許出願の技術(ここでは「生体情報の処理」)に基づき、新規事項(ここでは「COVID-19の検査」)を追加して関連の出願を行う、という制度が存在します。System and Method for Testing for COVID-19はその制度に則って出願されたものであり、その出願日は2020年5月17日です。

このように、誤情報であるものの、専門用語(ここでいう「優先日」や「出願日」)の使用により情報が誤情報である点が分かりにくくなっているようなケースが存在します。特に新型コロナウイルスの起源やワクチンの副反応等については、多くの誤情報が存在するので、注意が必要です。

インドネシアにおけるCOVID-19の死者数に関する共同通信社の報道に対する応答
(2021年8月27日掲載)

2021年8月21日付の「世界で子どもの感染拡大 日本も増加、学校対策急務」と題された報道は、「世界最悪の水準で感染が拡大したインドネシアでは7月、毎週100人以上の子どもが亡くなった。現地の小児科学会の会長はツイッターで「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」と指摘し「ワクチン接種を急ぐべきだ」と訴えた」との文言を含みます。

URL:https://news.line.me/issue/oa-kyodo/u8nvdq0b0soj?utm_source=Twitter&utm_medium=share&utm_campaign=none&share_id=Ldt29691741079(検索日:2021年8月25日)

8月25日現在、この報道は既に、毎日新聞、東京新聞、南日本新聞、東北デーリー、北國新聞など多数の機関により報じられており、ソーシャルメディアでも拡散され、既に社会全体に少なからぬ影響を及ぼしたものと認められます。特に、現在日本では12歳以上の若い世代のワクチン接種が進められているため、上記報道の影響は看過できないものと認められます。

報道のうち「現地の小児科学会の会長はツイッターで「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」と指摘し「ワクチン接種を急ぐべきだ」と訴えた」の部分の情報源である、インドネシア小児科学会会長のツイッター投稿記事は、次の文章であると思われます。

“anak 10-18 thn kita>26 juta ~10% penduduk Indonesia. Kematian Krn Covid umur ini 30%. segerakan Imunisasi anak2 umur 12-17 thn.”

(URL: https://twitter.com/amanpulungan/status/1421804631101902857)(検索日:2021年8月25日)

この投稿記事を、インドネシア語を母国語とする翻訳者2名及びインドネシア語の知識を有する日本人複数名からの情報に基づき翻訳したところ、以下のような表現が正確であろうとの結論に至りました。

「10~18歳の人たちは、インドネシア人の人口のうち>2600万人であり、総人口の~10%である。この年齢層でのCOVIDによる死亡率は30%である。12〜17歳の子供はすぐにワクチン接種すべきである。」(以下、この訳文を「訳文I(Ieda)」といいます)

報道の「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」との文言は、10~18歳は新型コロナウイルス感染症による死者全体の30%を占めた、を意味する(あるいは強く示唆する)と認められます。一方、訳文Iによれば、「30%」は、「コロナの死者の30%」ではなく、「10~18歳」の年齢層における新型コロナウイルス感染症による死亡率、を指すものと認められます。

よって、訳文Iに基づけば、報道の内容には、会長の見解からの顕著な乖離が認められます。

このように、報道は、誤報であると認められます。

技術翻訳者である私は、会長の投稿記事から「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」という報道が生成される過程に、人為的な歪曲が導入された可能性が否定できない、と考えます。あるいは、人為的な歪曲がなされなかったのであれば、投稿記事に対して極めてレベルの低い翻訳がなされ、報道がその翻訳に基づくものである可能性が否定できない、と考えます。「極めてレベルの低い翻訳」とは、具体的に、例えばGoogle Translate等の無料の翻訳ソフトウェアが提供する翻訳に人が一切手を加えない状態の翻訳、言い換えれば、インターネット環境が整ってさえいれば、無料かつ約1秒で得られる翻訳よりもレベルが低い翻訳を指します。なぜなら、例えばGoogle Translateは、私がそれを用いた8月23日の21:40頃の時点で、投稿記事をほぼ正確に翻訳できたからです。(Google Translateが機械学習型のソフトウェアである(その精度が、私が利用した時点以降、変化している可能性がある)点に鑑み、私がそれを利用した時間を記しています。)

なお、“ anak 10-18 thn kita>26 juta ~10% penduduk Indonesia. Kematian Krn Covid umur ini 30%. ” の文言は、毎週インドネシアで100人以上の子供が新型コロナウイルス感染症により亡くなったことに鑑み、次のようにも解釈可能なようです。(以下、意訳)

[10~18歳の人たちは、インドネシア人の人口のうち>2600万人であり、総人口の~10%である。子供の死亡例のうちこの年齢層が占める割合は30%である。 ]

いずれにせよ、共同通信による報道は誤報であると認められます。

(2021年8月31日追記)

誤報が流れてから私は、多くの報道機関に問い合わせをしました。返答したのはごく一部ですが、その間、訂正文が掲載されず元のオンライン記事が削除されるケースや、無断でオンライン記事が部分的に修正されるケースが見られました。日本のジャーナリズムの在り方が問われています。

この記事は、共同通信による事実上の訂正記事と思われます。私の問合せに返答した毎日新聞も、この記事を「当初の記事の訂正にあたるような」記事としています。訂正記事は、インドネシア小児科学会会長が「「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」とツイートした」と記していますが、そもそもこの認識が正確であるかについて、検討が必要です。私が上述したように、会長のツイッター投稿の内容は、「 「10~18歳の人たちは、インドネシア人の人口のうち>2600万人であり、総人口の~10%である。この年齢層でのCOVIDによる死亡率は30%である。 」、あるいは [10~18歳の人たちは、インドネシア人の人口のうち>2600万人であり、総人口の~10%である。子供の死亡例のうちこの年齢層が占める割合は30%である。 ] です。 「10~18歳は全人口の10%なのに、コロナの死者の30%を占めた」 の文言は、元の投稿から、「 インドネシア人の人口のうち>2600万人」の概念と「この年齢層での」の概念を省略し、二文を一文に繋ぎ、「なのに」とのニュアンスを補足しています。
なお、会長の意見がツイッター投稿という形態であり、文法上の曖昧さがあったとしても、7月にインドネシアで「毎週100人以上の子どもが亡くなった」ことと、7月のインドネシアの合計死者数が約500~2000人/であったこと(報道関係者にとって周知の事実)を考慮すれば、上記「30%」が、死者数全体に占める割合でないことは、容易に推測できたはずです。

誤報が誤報により訂正される事態が発生しています。共同通信社のみならず、日本の大手報道機関や地方紙が数多く関与する、全国規模の問題です。
当初の誤報を流した各報道機関のジャーナリストが集まり、誤報が成立した経緯や、その誤報がファクトチェックされず流された経緯について開かれた話し合いを設け、今後このようなことが起きないよう対策について検討することを、提案します。

現在、若い世代の間や、子どもがいる家庭では、変異株の影響下、ワクチン接種を受けるべきかについての検討や議論がなされているものと推察します。子どものワクチン接種については、日本ワクチン学会理事の中野貴司氏(川崎医科大学)や森内浩幸氏(長崎大学病院)も慎重な姿勢を示しており、国際的にも、安全性に関しより多くのデータの蓄積を待つとの見解があります。
若い世代でも、冷静な科学的判断によりワクチンのベネフィットがリスクを上回る個人の場合は、ワクチンは接種されるべきです。一方、上記のような誤報により人々に恐怖が植えつけられ冷静な判断ができなくなり、それにより、科学的に健康であり今はまだワクチンの接種が必要ない若い人に誤ってワクチン接種がなされるようなことがあってはなりません。そのような接種により子どもが後遺症を負ったり命を落としたりした場合、その責任は報道機関にあります。
上記の誤報の影響が相殺されるような対策が講じられるよう、各報道機関、特に共同通信社に強く求めます。

本ウェブサイトは科学的な考察を促すために開設されましたが、本件については、誤報が植えつけた負の感情と等価の私の怒りの感情を露わにすることが科学的に(情報の等価性の観点から)妥当と思われるため、そのように致します。

各報道機関による早急な対応を求めます

 

(2021年9月2日追記)

北海道新聞は、当初の誤報記事を新聞社のウェブサイトに掲載していましたが、ある時点で削除しました。その経緯について私が尋ねると、新聞社として誤報であることを認識し、後日紙面上(紙媒体の記事)で、訂正文を掲載したとのことです。ウェブサイトで記事を掲載したのであれば、ウェブサイトに訂正文を掲載すべきと思われます。私のように、北海道から遠方に住む者にとって、紙面上での訂正文に触れることは困難です。一般に、オンラインの記事に触れる人(層)および人数と、紙媒体の記事に触れる人(層)および人数は、異なることが想定されます。

東京新聞からは、以下の情報を得ました。東京新聞社のウェブサイト上に掲載された誤報記事は、東京新聞社が自身のウェブサイトに掲載したのではなく、共同通信社が東京新聞社のウェブサイトに掲載したものだそうです。また、誤報記事は、掲載後短時間で東京新聞社のウェブサイトから削除されたようですが、この削除を行ったのも共同通信社だといいます。東京新聞社から共同通信社に、事の経緯について問い合わせているものの、9月1日17時現在、返答がないようです。

報道機関の報道が、不適切な形で、いとも簡単に削除ないしは修正される場合、例えば本ウェブサイトのようなサイトに掲載されたオンラインの情報に比べ、報道の信頼性はどのように確保されるのでしょうか。また、記事を売買する報道機関(たとえば共同通信社と東京新聞社と)の間で適切な関係が維持できない場合、制度上、構造上の重大な問題が存在するのではないでしょうか。
いま、このような問題の影響を受けているのが若い世代である点を、憂慮いたします。

(2021年9月2日追記)

9月2日の午後、東京新聞社から連絡がありました。それによれば、8月27日の夕刊(有料記事)に訂正文が掲載されたようです。一方、無料のオンライン記事に対する無料のオンライン訂正文は掲載されていません。有料の訂正文には、インドネシア小児科学会会長がツイートの内容について「曖昧な表現だったことも含め、データなど詳細な説明を避けている」と記されており、会長の発言にも問題があったとの認識のようです。
また、東京新聞社のN氏は、当初の誤報と同じような規模で訂正文を掲載しなければならないというルールはない、との認識を示しました。そのようなルールがない場合、報道が社会に与えた影響を相殺することはできないとの懸念が残ります。