ヘールト・ファンデン・ボッシュ氏から、ワクチン接種を検討している人、ワクチンについて学びたい人は、氏のウェブサイトに掲載されている情報をダウンロードし活用して下さい、とのメッセージを受け取りました。以下の短い記事は、氏がこれまでに発信した数々の情報の根底にある理論を表していると思われます。

なぜ、集団コロナワクチン接種を進めることにより、淘汰(とうた)されず免疫(めんえき)をすり抜ける(へん)異株(いかぶ)が優位となるのでしょうか

(2021年5月14日更新)

「集団ワクチン接種を進めることにより、感染率を大幅に低減でき、新たな変異ウイルスの発生を抑制(よくせい)できます。よって、ワクチン接種を強化することにより、新たな変異株の流行を防止できるはずです。」単純化されたこの仮説(かせつ)は、なぜ根本的に(あやま)っているのでしょうか?

先ず、より感染力の強い変異株が発生した場合、その変異株が自身の力を強め定着するためには、サブオプティマルな免疫圧(変異株がすり抜けられる、やや緩い条件の免疫抑止力(訳者))に適応する必要があります。サブオプティマルな免疫圧とは、変異株がすり抜けるのを許した免疫圧です。サブオプティマルな条件の下(注1)、ウイルスが高い感染価をもって成長できるよう適応するためには、同等の「ストレス」の条件下でウイルスを繰り返し培養(ばいよう)することが必須です。同様に、選択的(淘汰を経て特定のウイルスのみが生き残るような(訳者))かつサブオプティマルな免疫圧の下、高度に変異しやすいウイルスが人から人への伝染(でんせん)を繰り返すと、選択され免疫をすり抜けた変異株が「トレーニング(育成)」を受けることになります。よって最終的に、変異ウイルスは適応し、初めはウイルスの複製を抑止していた条件の下で、成熟した複製を作れるようになります。感染力がより強い新型コロナウイルスの変異株には全て、変異がスパイク(S)タンパク質の部分で起きている、という特徴があります。(ここでは、そのように変異したウイルスを「S変異株」と呼ぶことにします。)スパイクタンパク質に特化した変異の選択により、ACE-2細胞受容体(じゅようたい)への変異株の結合が強化されます。(ACE-2細胞受容体は、細胞膜上にある細胞受容体で、これと結合することによりウイルスは細胞内に侵入できます(訳者))。呼吸(こきゅう)上皮(じょうひ)細胞(さいぼう)上にある細胞受容体にウイルスが強固に結合すると、スパイクに特異的な抗体(スパイクをターゲットとして攻撃する抗体(訳者))が感染に対して発する抑止力を、S変異株が乗り越えられるようになります。

感染防止策や集団ワクチン接種が実施されていない状況では、自然発生するS変異株が周囲の野生ウイルスと競争するような状況は成立しません。なぜなら、S変異株が人間宿主に適応することを(うなが)すような選択的免疫圧の構造が、存在しないからです。抗体陰性(いんせい)の(血清(けっせい)抗体検査の結果が陰性の(訳者))集団が新型コロナウイルスに新規感染した場合、免疫をすり抜けたS変異株の複製や増殖を促すような選択的免疫圧は、発生しません。ある人が過去に、野生の新型コロナウイルスに感染したことにより、初回抗原刺激(特定の抗原から始めて受ける刺激(訳者))を受けている場合、その人が以後変異株Sの抗原に接すると、強い反応を起こします。この反応は、スパイク及び変異スパイク抗原の双方を効果的に認識する抗体により形成されるものです(https://science.sciencemag.org/content/early/2021/03/24/science.abg9175)。そして、コロナウイルスへの感染により抗体が陽転(ようてん)しつつある人々は、ウイルスに対抗する自然免疫により、他のコロナウイルスに再度感染しにくくなります。以上で述べたいずれのケースにおいても、サブオプティマルな選択的免疫圧の下でS変異株が繰り返し複製し増殖する状況は発生しません。それは、言いかえれば、免疫をすり抜けたS選択的な変異株が適応することは、自然感染の条件下において、通常は起こらないということです。1918年のパンデミック中インフルエンザで死亡した人達を解剖して保存したサンプルも、このことを裏付けるようなウイルスの特徴を示していると思われます。最も強かった第2波の際に分離されたサンプルでさえ、変異株による影響を全く示していません(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3291398/)。

一方、集団ワクチン接種を行った場合、自然発生するS変異株が選択的な免疫圧を経験するチャンスが多々あります。集団ワクチン接種により、母集団(集団全体(訳者))のうち、初回抗原刺激を未だ受けていない大規模な集団については、スパイクタンパク質に対して抗体が陽転し、相当な期間(例えば、2回接種型のワクチンについて2回目の接種を待っている間)、サブオプティマルな抗体が維持されることにもなります。このような状況下、その人達は、自然発生する変異ウイルスにさらされ続けるのです。この集団には、それまで全く感染したことのない人や、感染はしたものの無症状で、(おそらくは初回刺激が不十分だったことにより)短期的にしか維持されない抗体価しか示さなかった人も含まれます(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.12.18.20248447v1; https://www.nature.com/articles/s41392-021-00525-3)。リスクのある(例えば、基礎疾患のある(訳者))人々に対して集団的にワクチンを接種しても、感染伝播のくさりを断つことはできず、むしろ感染状況を強化させつつ、感染の矛先(ほこさき)を無症状のキャリアーへ向けることになります。(無症状のキャリアーには、ワクチンを受けた人達や、ワクチンを未だ受けていない若い人達および健康な人達が含まれます。この人達の中には、長期的に維持される抗体価を得ることなく無症状の感染を経験した人もいます(注2)。)現在行われている集団ワクチン接種は、ウイルス感染の「貯水池」を、(ワクチン接種の有無に関わらず)無症状の感染者に移行させています。これにより、ワクチンを受けたことはないものの既に無症状の感染歴を有する人々が、サブオプティマルかつ短命な抗スパイク抗体を付与された状態で新型コロナウイルスに再感染する確率が、大幅に高まります。つまり、現在ウイルス感染の渦中にある集団においては、自然発生する新たなS変異株にとって、サブオプティマルな免疫圧の下でトレーニングを行うチャンスが多々あります。そして、S変異株は最終的に、人間宿主に適応することになり、流行する優占的な新型コロナウイルス集団の一部となります。これが、感染防止策の直接の産物である選択された変異株が初期の増殖を経た後、それに続く集団ワクチン接種が、より感染力の強い新たなS変異ウイルスの流行を推進する仕組みです。このような、より感染力が強く免疫をすり抜けた変異株の「トレーニング」は、ワクチンにより症例が減少した後に見られるプラトー(変化が少ない(症例の増減が少ない)期間(訳者))が前回の波の後よりも高いレベルにある状況にも、映し出されると考えられます。

リスクのある集団に対する集団ワクチン接種が始まったため、ワクチン接種を受けた人々だけでなく、未だワクチン接種を受けていない若い世代も、感染力の強い新たな変異株の繁殖地と化すでしょう。集団ワクチン接種を継続することにより、ワクチン接種率は高まるものの、感染力のより強い新たな変異株がより優占的となり、最終的に新たな症例が劇的に増加することには、疑いの余地がありません。また、このような状況により、近い将来、流行中の変異株が現在のワクチンに対して完全な抵抗力を身につけるようになることにも、疑いの余地がありません。これは、集団ワクチン接種を強化し加速すれば、新たな優占的変異株の流行を低減でき、よって、ウイルス感染率を更に低減でき、罹患率や死亡率の曲線をなだらかにできる、と主張する人々の予測とは、かけ離れています。

注1:サブオプティマルな条件は、サブオプティマルな温度や中和未満の抗体の存在下で、あるウイルスを、細胞培養したり、そのウイルスに対し通常は感染を許容しない宿主細胞に植えつけたりする際に、成立します。

注2:特にコロナウイルスに非特異的な自然抗体が高い人は、例えば第1波における新型コロナウイルスとの接触により、その後、スパイクに特異的ではあるものの短命かつ成熟していない抗体を作る可能性があります。(ただし、このことは未だ証明されていません。)