小島勢二・名古屋大学名誉教授の著書『検証・コロナワクチン:実際の効果、副反応、そして超過死亡』および関連するアゴラ投稿記事について
(2023年7月31日掲載)
著書『検証・コロナワクチン:実際の効果、副反応、そして超過死亡』(以下、「本著」)の一部は、アゴラ 言論プラットフォームに投稿された小島氏の記事に基づきます。2023年3月末頃まで氏からの依頼により記事ドラフトの校閲を行った者として、本著の内容および基となる投稿記事について私見を述べます。
はじめに、本著は、下記各点を含む様々な点において有用な情報を紹介していると考えます。
・ 遺伝子治療に精通する医師の観点から「遺伝子ワクチン」と称されるmRNA製剤が評価されている。
・ 厚生労働省によるデータ処理の問題(接種歴の入力がなかった人を未接種者として扱っていた)について問題提起した本人から一次的な情報が提供されている。
・ 子どものコロナワクチン接種について優れた小児科医の見解に触れることができる。
・ 一般に紹介されない国内外の論文・データが紹介されている。
その上で、本著ないし投稿記事を読むにあたっては以下の点に留意が必要と考えます。
① データの正確性および包括性
② 超過死亡の算出方法
③ 情報源
以下では、①~③について、実際の記載例に基づき私の観点を紹介します。私は、医療関連の文書の校正・翻訳は経験があるものの、医療者ではありません。私の職業は、知的財産関連文書の作成、校正、翻訳などであり、特許に関する文書の法的・技術的観点からの校閲(発明の新規性・進歩性、審査官による見解の妥当性、データの正確性、出願書類本文と図との整合性などのチェック)が日々の作業に含まれます。
① データの正確性および包括性
A.「超過死亡に関する海外からの最新情報」(2023年3月11日アゴラ掲載;本著226頁~の内容に対応)
以下の図が掲載されています。
本文には、この図が「2022年12月のヨーロッパ各国の超過死亡率と2022年11月末までの100人あたりのワクチン追加接種回数との相関」を表すと記されています(下線:家田)。一方、小島氏が参照したEurostatには、ヨーロッパの他の国のデータも掲載されています。Eurostatに問い合わせたところ、2023年2月17日の時点で、小島氏が取り上げなかった国々のデータも既にEurostatに掲載されていたようです(私が小島氏からのドラフトを受け取ったのは3月9日です)。
また、「ブルガニア」と記された国に対応する点が二重になっている(数値が二重に入力されている)可能性があります。
前掲の図の一部を拡大
(図にプロットされたデータから抽出した値に基づき図示された各国について相関係数を計算した場合でも、「ブルガニア」に対する値が二重に入力されている可能性が否定できませんでした。プロットされた超過死亡率および追加接種回数から読者ご自身が相関係数を計算なさり、私の考えに間違いがある場合は、ご指摘下さると幸いです。作図の基となった数値の提供を小島氏に依頼しています。)
Eurostatに掲載されたヨーロッパの国全てについて2022年12月の超過死亡率と2022年11月末までの100人あたりのワクチン追加接種回数との相関を計算したところ、以下のデータが得られました。(2023年7月8日時点のデータに基づく)
小島氏が算出した相関係数0.57と0.37とでは、統計的な意味が大きく異なります。相関係数0.37、およびスロベニア、スロバキア、ルクセンブルク、スウェーデン、イタリア、スイス等のデータは、超過死亡の原因としてワクチン以外の因子の存在を強く示唆していると考えられます。
ヨーロッパの全ての国を対象とした考察は、地理的・人種的共通性などの観点からある程度有意義であると思われます(各国の年齢構成、医療の水準、経済力、人口密度、各種抗体保有率、対象期間における気候や流行株等を考慮すると、より有意義な情報が得られます)。データ解析から一部の国を除外する場合、除外には理由が存在するはずであり、解析者はその理由を説明すべきと思われます。
B.「ワクチンを接種するほど死亡率が下がるという神奈川県の発表は本当か?」(2023年2月1日アゴラ掲載;本著104頁~の内容に対応)
以下の表が掲載されています。
ここで小島氏は、各群の人年を求めるため、5回接種群の観察期間を2週間に設定しています。この観察期間ついては一部の研究者から問題点が指摘され、その点を私から2023年2月10日に小島氏にお伝えしました。私自身は、2週間という推定値が、(完全な誤りでない可能性はあるものの)神奈川県の報告から推定可能な期間に対して短かすぎると考えました。ドラフトにおいて5回接種群の観察期間は「3週間」と記されていました。ここでの考察においては、観察期間を短くすればするほど群の死亡率は高くなります。
2週間という観察期間が実際の期間よりも短い場合、接種群の死亡率は実態を超えて高まり、ワクチンのリスクが過度に強調されることになります。
接種回数別に各群を比較する際は、各群に含まれる基礎疾患患者の割合といったバイアスを考慮する必要があります。日本では、未接種群よりも接種群の方が基礎疾患患者の割合が高く、接種回数が高まれば基礎疾患患者の割合も高くなるとの調査結果があります*。また、healthy vaccinee effectのようなバイアスが存在する可能性もあります。そのような点を考慮していない場合、群間の比較は不完全なデータを産出します。神奈川県による報告の不完全さを指摘した点において、小島氏の観点は有用であると考えます。
*以下の動画でThink Vaccineが行った調査の結果が紹介されています:https://youtu.be/6DNd6qirMc0?t=11939
② 超過死亡の算出方法
超過死亡について、小島氏は複数の算出方法に基づくデータを参照、紹介しています。国立感染症研究所、Economist、Lancet 2022; 399: 1513–36、Human Mortality Database、World Mortality Dataset、Eurostat等では独自の算出方法が採用されており、算出値に(時には顕著な)差があります。例えば、Our World in DataではEconomist並びにHuman Mortality Database(2023)およびWorld Mortality Dataset(2023)による算出値を用いていますが、2020-2021年の日本の超過死亡について、前者によればプラスの値が得られ(超過死亡があった)、後者によればマイナスの値が得られます(超過死亡は無かった)。
「超過死亡に関する海外からの最新情報」の記事には、日本の超過死亡について次の記載があります。
「超過死亡はEurostatに準じて、2015年から2019年の平均死亡者数との差で算出した。多くの国では、コロナの流行が始まった2020年から超過死亡が観察されたが、日本では、2020年には超過死亡はみられず、かえって過去5年間と比較して死亡者数は減少した。日本の超過死亡は、ワクチン接種が始まった2021年から観察されるようになった。」
これに関し、「2015年から2019年の平均死亡者数との差で」超過死亡を算出した場合、2020年における日本の超過死亡はプラスの値になります(人口動態統計 確定数によれば、+36,195)。すなわち2020年にも超過死亡は生じていたことになります。実際、上記の文言に関し小島氏が作成した以下の図においても、2020年に超過死亡が生じています。
よって、「日本では、2020年には超過死亡はみられず…ワクチン接種が始まった2021年から観察されるようになった」との記載は不正確です。過去の人口動態の傾向を考慮した感染研やEconomist等の算定値が頭の中にあった私は、ドラフト校閲時、記載の問題点に気付きませんでした。重大な事柄であるため、ここでの私見は自責の念を込めて記しています。
毎年の死者数が増加傾向にある日本のような国については、過去の平均値に基づき超過死亡を算出すると、実態を適切に反映しない結果が得られます。この点は小島氏や本著に推薦文を寄せた福島雅典氏のような科学者にとって自明と思われます。過去の平均値を用いることには利便性(計算の簡素化など)があるものの、そうするのであれば、平均値を用いることの問題点にも言及する必要があると思われます。
③ 情報源
A. 情報源が明記されていない情報が複数あります。小島氏には、情報源の明記の重要性を複数回ご指摘申し上げました。その一理由は、情報源が明記されていれば、上で私が行ったように読者自身が情報の正確性を確認(ファクトチェック)できるからです。
B. 「超過死亡の原因をめぐる英国での論争」(2023年4月19日アゴラ掲載:本著236頁~の内容に部分的に対応)
本論考は、The People’s Voiceというニュースサイトに掲載された誤報”BBC News Finally Admits COVID Vaccines Caused ‘Excess Deaths’ in 2022”に基づきます。小島氏には、何故これが誤報であるかについて私見を申し上げました。誤報に基づく論考の妥当性については検討が必要と思われます。
C. 小島氏は超過死亡の算出値について前出のLancet 2022; 399: 1513–36を取り上げ、自身の算出値との共通性を述べています(「昨年後半から激増が続くわが国の超過死亡について」(2023年3月14日アゴラ掲載;本著231頁~の内容に対応))。この論文によれば、2020~2021年の日本の超過死亡数は約11万とされており、この値が日本の実態を反映していない点が国内外の多くの科学者により指摘されています。(算出方法の詳細および妥当性について私から論文著者に問い合わせましたが、返答は得られていません。)
アルゴリズム、バイアス補正、ランダム化における問題といった理由により通常であれば掲載されないような論文が、パンデミック時においては、インパクトファクターの高い一部の雑誌に掲載されています。パンデミックの時代は、論文、報道、専門家の意見を含め社会に流布する種々の情報の正確性を確認する能力が万人に求められる時代、と評することができるかも知れません。現在、新型コロナウイルスやワクチンについて、社会には非常に多くの誤情報や偏った情報が存在します。
【最後に】
以上、私が留意すべきと考える点の一例を記しました。上記各点の一部を、本著出版社のご担当者、小島氏、福島氏にお伝えしました(2023年6月末)。対応の必要はない、とのお返事を頂戴しました。
本著およびアゴラ記事の内容は人命に関わる判断に影響を与える可能性があります。よって、記述や記載に高度な正確性・包括性が求められます。先にも述べた通り、本著および諸アゴラ記事は有用な情報を多く含んでいます。それらの情報が読者ないし社会における意見形成に適切な形で寄与することを願っています。
家田堯
【追加情報】
2023年10月15日、小島氏の反論文がアゴラに掲載されたので、紹介いたします。
https://agora-web.jp/archives/231014060143.html